私がこの開発に取り組んだとき、起点に置いたのは、技術でもアイデアでもなく、「生活者の行動」でした。弱った歯ぐきをケアしようとしている人が、日常の中でどのように工夫しているのか。その実態を知るために、生活の場面に入り込み、観察することから始めました。
そこには、既存の商品では満たされていないニーズと、すでに生活者自身が編み出している小さな解決策が存在していました。新しい価値の種は、特別な発想ではなく、こうした日常の中に埋もれている——それが出発点でした。

次に行ったのは、その仮説を検証可能な形に変換することです。歯ぐきへのマッサージが有効であるという感覚的な理解を、臨床試験によって確かめ、科学的な根拠へと高めていきました。さらに、血流測定などの手法を用いながら、どのような刺激や動かし方が最も効果的かを検証しました。
感覚としての「気持ちいい」を、そのままにせず、再現可能な知見へと変換する。感性と科学を分けるのではなく、結びつけることが重要だと考えたからです。
素材の検討においても、この姿勢は一貫していました。目標は極めてシンプルです。「心地よさを最大化する素材を見極める」こと。既存の製品も含めて実際に試しながら、複数の素材候補を比較・検討し、触感と使用感を確かめていきました。同時に、それらを裏付ける客観的な評価軸も持ち続けました。主観と客観、その両輪が揃って初めて、信頼される価値が成立すると考えています。
使った人の言葉が、価値を定義する
検証の過程で得られた生活者の声は、単なる評価を超えた示唆を持っていました。
「自分の指で触れることで、日々の状態がわかる気がする」
「やさしく手当てしているような感覚がある」
これらの言葉は、機能の説明ではなく、その体験の本質を表していました。開発側が定義した価値ではなく、使った人自身が感じた意味こそが、その商品の本当の価値です。
そのため、コミュニケーションにおいても、作り手の言葉ではなく、生活者の言葉をそのまま活かすことを重視しました。価値は「設計する」だけでなく、「発見する」ものでもあるのです。

普及までを設計するという考え方
新しい価値は、優れているだけでは広がりません。特に新習慣を伴う商品は、「どう使えばいいのか分からない」という障壁を必ず持ちます。
そこで重要になるのが、商品そのものだけでなく、「使い方が伝わる設計」です。既存の習慣と接続しながら、新しい使い方を段階的に受け入れてもらう。そのための提案や提供の方法まで含めて、設計する必要があります。
開発とは、モノを完成させることではなく、使われる状態をつくることまでを含む。この一連のプロセスを通じて、その認識がより明確になりました。
マーケットインと技術の融合は、スローガンではありません。
生活者を観て、仮説を立て、科学で検証し、また現場に戻る——その往復の中にこそ、本当に人に届く商品が生まれると、私はこの開発を通じて確信しています。

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