前回は、花王が50年守り続けてきた「商品開発5原則」についてご紹介しました。
今回は、法政大学人間環境学部松本敦則教授のゼミでの学部生との対話を通じて、改めて実感した「消費者観察こそが商品開発の本質だ」というメッセージをお届けします。
● 学生が見せてくれた現場主義
ゼミでの発表は、3グループ18名がそれぞれ花王の商品を担当し、15分間のプレゼンテーションを行うというものでした。
発表を聞きながら、私が最も感心したのは内容の深さよりも、学生の「姿勢」でした。あるグループはドン・キホーテの5店舗を実際に歩き、売り場の違いを自分の目で比較していました。別のグループは商品を実際に使い、使用感を自分の言葉で語っていました。
これは、花王が商品開発において大切にしてきた「現場主義」そのものです。
花王では、「買い場(店頭)」と「使い場(家庭)」の2つを開発者自身が徹底的に見て回ることを重視してきました。データや資料だけで商品を作るのではなく、消費者が実際に買う場所・使う場所におもむき、そこで何が起きているかを自分の感性で受け取ることを大切にしています。
学生たちは、それを自然にやっていました

● 「誰のために、何の価値を」という問いが、すべての出発点
商品開発5原則の第一は「社会的有用性の原則」です。
「社会にとって、今後とも真に有用なものか」を問うこの原則は、言い換えれば「誰のために、何の価値を提供するか」という問いです。
この問いに答えるには、机の上の情報だけでは不十分です。
消費者が何に困っているのか、何に喜んでいるのか、どんな瞬間にその商品を手に取るのかを、生きた観察からつかむ必要があります。ビオレUVの開発では、「SPFの値は高いのに、なぜ日焼けするのか」という素朴な疑問から研究が始まりました。観察するための装置すら存在しなかったため、開発チームは「UVカメラ」と「UV顕微鏡」を自ら開発するところから着手したといいます(花王公開情報より)。装置の開発だけで約5年を要したこのエピソードは、消費者の「なぜ?」に真剣に向き合う姿勢の表れです。
● フィードバックで伝えたかったこと
ゼミ生へのフィードバックの最後に、私はこんな言葉を伝えました。
生成AIで簡単に情報を入手できる時代だから、自分の目で確かめ、自分の感性や価値観と合っているのか?
違っていたら、なぜなのか? に問いを立てて調べることが、大事ではないかと思います。
あなたの問いと、自身の感性の掛け合わせで、新しい提案ができるかもしれません!
AIは大量の情報を瞬時に整理して示してくれます。しかし「この商品を手に取ったとき、どんな気持ちになるか」「この売り場に立ったとき、何が気になるか」という感覚は、自分の感性を通じてしか得られません。
消費者観察の本質は、データ収集で終わらず、「問いを立てる力」を育てることです。
なぜこのパッケージなのか。なぜこの使用感なのか。なぜこの価格なのか。なぜこの売り場や棚に置かれているのか。その「なぜ」を自分の言葉で考えることが、商品開発の出発点になります。

● 中小企業こそ消費者観察が武器になる
花王のような大企業には、消費者調査の専門部署があり、大規模なモニター調査を行うことができます。しかし中小企業には、それができません。
だからこそ、経営者・開発担当者が自ら現場に出ることが意味を持ちます。
自社が想定するターゲットの「買い場」や「使い場」に、自ら足を運んで見て感じ、「誰のために、何の価値を提案するか」を問い続ける。その「小さな現場主義」の積み重ねが、細やかな価値提案につながります。

● おわりに
今回のゼミは、私にとっても大きな学びの場でした。
学生の発表を聞きながら、「この視点は自分にはなかった」「この着眼点は鋭い」と気づかされる場面が何度もありました。
教える側が一番学んでいる、というのは本当のことだと思います。
松本先生、そして発表に真剣に取り組んでくださったゼミ生の皆さんに、この場を借りて感謝を伝えたいと思います。
商品開発5原則は、花王という一企業のフレームワークです。
しかしその根底にある「消費者を観察し、社会に本物の価値を届ける」という姿勢は、業種・規模を問わずすべてのビジネスに通じるものだと信じています。
※ 参考文献:佐川幸三郎(1992)『新しいマーケティングの実際』プレジデント社
※ 出典:花王統合レポート2025、花王ウェブサイト公開情報

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