花王が50年守り続ける信条 ── 商品開発5原則とは何か

先日、法政大学人間環境学部の松本敦則教授からお声がけをいただき、学部ゼミでレクチャーをする機会を得ました。松本先生は、私が法政大学大学院の中小企業診断士養成講座でお世話になった恩師です。

テーマは「花王の商品開発5原則とマーケティング戦略の関係」。
ゼミ生18名が3グループに分かれ、めぐりズム・アタックZERO・ビオレUVの中から商品を選んで15分間発表し、私がフィードバックとレクチャーをするという形で実施しました。

準備と当日の対話を通じて、改めて商品開発5原則の本質を考える機会をいただきました。 今回はその内容をもとに、「商品開発5原則とは何か」をご紹介します。

● 商品開発5原則は、50年前に生まれた「判断基準」だった

商品開発5原則は、花王元会長の佐川幸三郎氏が1970年代初めに提唱したフレームワークです。
佐川氏は著書『新しいマーケティングの実際』(1992年、プレジデント社)の中でこれを体系化しており、今も花王が新商品を発売する際の判断基準として受け継がれています。

注目すべきは、商品開発5原則のすべてを満たさない限り商品化しない、という徹底した姿勢です。
単なるチェックリストではなく、「これが花王製品を守る誓いだ」と、花王OBとして社内でそう語り継がれてきたことを知っています。

● 5つの原則:それぞれが問うていること

① 社会的有用性の原則 「社会にとって、今後とも真に有用なものか」
売れればよいのではなく、その商品が社会に本当に必要とされるかを問います。
一時的なトレンドを追うのではなく、長期的に社会の役に立てるかどうかが出発点です。

② 創造性の原則 「自社の創造的技術・技能・アイデアが盛り込まれているか」
他社の単なる模倣はしない、という宣言で、花王独自の技術や発想が込められていなければ、世に出す意味がないと   いう考え方です。差別化は結果ではなく、前提条件です。

③ パフォーマンスバイコストの原則 「コストパフォーマンスで、どの企業よりも優れているか」
価格に見合う価値を提供できているか。
競合他社よりもコスパで上回れなければ、消費者に選ばれる理由がありません。
価格設定と品質の両立を厳しく問う原則です。

④ 調査徹底の原則 「あらゆる局面での消費者テストで、そのスクリーニングに耐えたか」
リサーチなき戦略は机上の空論。
コンセプト調査・使用テスト・デザイン調査など、商品化に至るまで何度も消費者の目線で検証を繰り返します。

⑤ 流通適合化の原則 「流通の場で商品に関わる情報を消費者に伝達する能力があるか」
どれだけ優れた商品でも、伝え方が伴わなければ売れません。
店頭でどう見えるか、広告でどう伝わるか。「品質で勝っても、伝え方で負ければ売れない」のです。

● 商品開発5原則は、マーケティングの「誰に・何を・どのように」と直結している

マーケティングの基本は、「誰に(ターゲット)」「何を(価値提案)」「どのように(4P)」を考えることですが、実はこれらは商品開発5原則と対応しています。

 ①社会的有用性 → 「誰に・何を」の根拠。そのニーズは本物か? 
 ②創造性           → 「何を(プロダクト)」。他にない価値を作れているか? 
 ③バイコスト    → 「プライス」。コスパでターゲットに選ばれるか?
 ④調査徹底       → 「誰に」の検証。現場を知らない戦略は通用しない
 ⑤流通適合化    → 「プレイス+プロモーション」。届け方が整っているか?

4P(マーケティングミックス)という概念が一般に普及する前から、花王はこの商品開発5原則で同じ問いを実践してきました。

● なぜ今も有効なのか

提唱から50年以上が経ちますが、商品開発5原則は今も色褪せていません。
その理由は、原則の根っこにある問いが変わっていないからだと思います。
「社会に本物の価値を提供できているか」「消費者の目線で考えているか」「伝える力があるか」
これらは時代が変わっても、商品を作り、市場に届ける者が問い続けなければならないことです。

近年、多くの企業が「パーパス経営」を掲げています。
花王のパーパスは「豊かな共生世界の実現」。商品開発5原則の第一である「社会的有用性」と根底でつながっています。商品開発5原則は、パーパス経営の先駆けかもしれません。

● 商品開発5原則を「動かす」ノウハウ ──現場のプロセスに落とし込む

商品開発5原則は花王の信条であると同時に、具体的な商品開発スケジュールとして機能しています。佐川幸三郎氏の著書には、コンセプト調査・使用調査・デザイン調査・CM調査という4つの消費者テストを、開発の各段階で繰り返し実施するスケジュールが示されています。

研究開発・商品企画の検討から始まり、商品開発・商品化決定・量産化検討を経て発売に至るまで、商品開発5原則は一貫してこのプロセスに組み込まれています。

私自身、花王在籍中にこのスケジュールに沿って商品開発を進めてきました。
「商品開発5原則を知っている」と「商品開発5原則をスケジュールに落とし込んで実際に動かした経験がある」では、実践の深さが異なります。

この経験をもとに、Yuima経営デザイン室では「探索→商品企画→商品開発→量産化→発売→発売後フォロー」という商品開発支援の流れを提供しています。花王で培った商品開発のプロセス管理のノウハウを、中小企業の商品開発支援に活かすことが、Yuima経営デザイン室の強みです。

● おわりに

今回のゼミを通じて、学生の皆さんが真剣に花王の商品と向き合っている姿に、私自身も多くの気づきをいただきました。
次回は、「消費者観察こそが商品開発の本質だ」というメッセージをお届けします。生成AIが普及した時代だからこそ大切にしたいことを、学生との対話から改めて感じました。

※ 参考文献:佐川幸三郎(1992)『新しいマーケティングの実際』プレジデント社
※ 出典:花王統合レポート2025

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