先日、新現役交流会という場で、ある製造業の若き跡取り専務とお話しさせていただく機会があった。持ち時間は25分。短い時間ではあったが、そこで交わされた対話は、「属人的な経営から脱却したい」という、事業承継の現場に生々しく横たわる課題そのものだった。
もし今、家業を継ぐ立場にあり、同じような息苦しさを感じている方がこれを読んでくださっているなら、決して他人事ではない話だと思う。
● 「現場改善」という入口から始まった対話
面談の入口は、「現場改善が進まず、生産性が上がらない」という、ごくオーソドックスな相談だった。応募時に提出されていた支援依頼票にも、そう記されていた。
現場主義を大切にしてきた身として、まずは先方の話をじっくり聞くことから始めた。沈黙を恐れず、こちらから多くを語らず、相手が言葉を選ぶ時間を大切にする。それが、これまで数多くの現場を歩いてきた中で培ってきた流儀だった。
すると、話は「現場改善」という入口にとどまらなかった。技能承継がうまくいかないこと。次の経営を担う人材がまだ育っていないこと。下請けからの脱却や商品開発を巡って、社内の意見がまとまらないこと。そして、事業承継そのものについて。
25分という短い面談の中で、経営全体に関わるテーマが、次々と語られていった。

● 深掘りする中で見えてきた、共通する苦悩
一つひとつの相談事は、決して独立した課題ではなかった。話を横断的に聴いていくと、それらはすべて、一つの根っこから枝分かれした現れ方であるように思えた。
先代が、その経験と人脈と勘によって回してきた会社を、どうやって組織として自立して回る仕組みに変えていくか。「属人的な経営からの脱却」という、経営そのものの在り方に関わるテーマである。
現場改善が進まないのも、管理職が作業者化してしまい、標準化や仕組み化の機能が組織に実装されていないから。ノウハウが継承されないのも、暗黙知を形式知に変える仕組みがまだ存在しないから。次世代人材の育成を望むのも、自分一人に依存しない「次の経営層」を組織として持ちたいという意図の表れ。商品開発の方向性が定まらないのも、経営としての優先順位を決める意思決定の仕組みが不在だから。
そして何より印象に残ったのは、専務ご自身の言葉ににじむ、率直な負担感だった。「怖い」「悲観を感じている」「その面倒をいつまでも見ていられない」。先代のような経験や人脈は、まだ自分にはない。だからといって、それを代替する組織的な仕組みも、社内にはまだない。もっと他のことに手を広げて会社を大きくしていきたいという将来像を持ちながら、現状は目の前の現場を見続けなければならず、身動きが取れずにいる。
過去のやり方——先代個人の力量に依存した経営——と、まだ存在しない未来のやり方——組織として自走する経営——の間、その「まだ地図にない場所」に、たった一人で立たされている。ありたい姿は見えているのに、そこに至る道筋がまだない。そのギャップこそが、苦悩の核心なのだと感じた。
これは、決して特殊な一社だけの話ではないだろう。事業承継の現場に立ち会うたびに感じる、多くの若き後継者に共通する構造なのではないかと思う。

●「中小企業支援とは、経営者支援だ」
この面談を振り返って、ふと思い出した言葉がある。
「中小企業支援とは、経営者支援だ」。
以前、ある先輩から教わった言葉だ。
支援する側は、課題を見つけるほどに「あれもしろ、これもしろ」と、つい荷物を積み上げてしまいがちになる。しかし、経営者や後継者が本当に求めているのは、荷物を軽くしてくれる存在であり、一緒に汗をかいて考え、動いてくれる伴走者ではないか。
あの専務が語っていたのは、課題の説明である以上に、一人で背負いきれない重さについての訴えだったのかもしれない。こちらが解決策や課題を積み増すほど、かえって荷物を増やす側に回ってしまうリスクがある。その戒めを、あらためて胸に刻む面談だった。
● 残念ながら、その先には進めなかった
面談の翌日、事務局から連絡があった。二次面談への移行は見送らせていただく、とのことだった。事業承継や人材育成、新規事業という、核心的なテーマにまで踏み込んで対話できた手応えがあっただけに、正直なところ、率直に残念な結果だった。
一方で、学びもあった。傾聴に徹する姿勢と、初回から小さな仮説や提案を添える姿勢は、本来どちらか一方を選ぶものではない。深く聴くことを主軸にしながらも、面談の終盤で「今日伺った内容から、こういう切り口の改善が考えられそうです」といった小さな仮説を一つ添えることができれば、傾聴の質を落とすことなく、相手に「また会いたい」と思ってもらえる材料を残せたのかもしれない。次の機会に活かしたい。
● 若き跡取り専務の苦悩を知ることで
今回の25分の対話を通じて出会った「若き跡取り専務の苦悩」は、決して一過性のものとして終わらせてはいけないと感じている。
先代から受け継いだものと、これから自分たちの手で築いていかなければならないもの。その間に一人で立たされている後継者は、きっと他にも数多くいるはずだ。
もしあなたが今、その「まだ地図にない場所」に一人で立っているように感じているなら、それは、あなた個人の問題ではなく、後継者という立場そのものが抱える構造なのだと思う。多くの後継者が、この場所を一歩ずつ抜けてきた。地図がないなら、一緒につくればいい。その苦悩に少しでも近づき、言葉にし、隣に立って一緒に荷物を持てる存在でありたい。

今回の経験を糧に、事業承継を含めた中小企業支援に、これからも精進していきたい。

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